【読んで考えたこと】ニムロッド

書評
UnsplashAlexander Greyが撮影した写真のAlexander Greyが撮影したイラスト素材

例えば学会前、本当にやるべきことが目の前にあるときに限って、私は本を読んで、こういうモノを書きたくなってしまいます。
そういう時は書いてしまった方が良いと思って、作成中の今です。

今回は、上田岳弘(うえだ たかひろ)さんの著作『ニムロッド』について話します。

『ニムロッド』のリンクはこちら。

内容

ざっと、私が読んだうえで大切だと思った内容。

主人公(中本)は、仮想通貨の採掘(マイニング)を業務として担うSE(システムエンジニア)。
彼の恋人(田久保)は、外資系証券会社で働くエリートとして描かれている。ただ、染色体異常のある子どもを中絶したことや、それに伴ってか離婚したことに、思うところがある様子。
ニムロッド(これは、主人公の先輩である荷室のあだ名)は小説家を目指していた。が、いまはすでに諦めた。ニムロッドはあだ名というよりペンネームの方が近いかもしれない。そのペンネームで、主人公に自作の小説を送り続けている。
この作品は、彼らにとって『価値あるもの』が指の隙間を砂のように零れる様を、そして零れた砂を掬いたいと思えなくなった彼らを書いているのだと考える。


本作品を先に読みたい方は、リンクから買うか、本屋に行くか、図書館で借りて読んでください。
『ニムロッド』のリンクはこちら。

以下、ネタバレ注意。

書きたかったこと

あらすじで触れた三人は全員、かつて大切にしていたものがあり、それを大切に思えなくなった人たちです。
中絶していたことを主人公に告白した田久保は、主人公とこんな会話をしています。

「それで、もう結婚もしないし、子供もつくらない?」
「別にかたくなに決めているわけじゃないけど。ただ、もうのれないような気がするだけ」
「のれないって、何に?」
「人間の営み、みたいなもの?」

上田岳弘, 『ニムロッド』, 講談社, 2019, p.43.

仮想通貨も、主人公の勤める会社の社長の提案で事業を開始したが、当初の目論見よりも採掘できないとわかると、少しずつ事業縮小していく。その様子が描かれています。

ただ、時系列を見ると、他二人は主人公が大切なものを失くす随分と前に、大切なものを喪失しています。

失くしていく過程にある人が、すでに失くしたあとの人を見ている。

よく考えれば、生きていて、それはふっとしたとき、自分の大切にしていたものが大切でなくなる瞬間がやってくる。
子供のころ肌身離さず持っていたぬいぐるみや、サイン入りのスポーツ用具、かつての親友や恋人。大きな声で悲しい、苦しいと叫べた、かつての私。
大切にできなくなったものや、大切にしていたつもりもなかった大切だったなものも含めれば、生きている内にどれだけの大切なものを失くすのだろうか。大切なものでなくなったと、何回気づいてから死ぬのだろうか。

その、気づいたときに抱く感情は、悲しみに近いけれども純粋なそれではなく、私の中では「物哀しさ」の代表例だ。その感情を抱く度に嫌気が差すが、それが悲しいと思いたくないが故の防衛本能か、はたまた単に大切なものを今以上に増やすことができないという現実を直視したくないだけなのか。

この本についてモノを書きたいと思ったのは、この抱えた物哀しさを身から出してしまいたかっただけなのかもしれない。書きたいことが無くなった今、そう思っています。

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