小川洋子さんの小説で、第1回本屋大賞を受賞した作品。
そういえば理系なのに読んでこなかったなぁ、と思った本です。
友人に薦められて読みました。
『博士の愛した数式』のあらすじ
家政婦として働き女手1つで小学生の息子を育てる「私」は、新たな仕事場として「博士」の元へ通うことになる。これまでも博士には家政婦がいたが、その全員がクレームによって辞めさせられていた。
博士の記憶は、きっかり80分しかもたない。そんな彼にとって、私は毎日、いや常に『新しい』家政婦である。『初対面』の私に、彼は必ず誕生日や靴のサイズ、携帯電話の番号などを尋ねた。私たちにとって、数字はかけがえのない言葉だった。
やがて私の息子が博士の家に来るようになる。博士は息子を「ルート」と名付けた。そこから始まる3人の日々は、温かく、そして緩やかな寂しさへと向かうものだった。
『博士の愛した数式』の感想
一般人、それこそ理学系を大学で専攻していなかった方々には、数学者という存在は謎めいたものでしょう。
私自身、大学で物理学を学ぶまで数学者に直接触れることはなかったし、実際に触れた後も変人だと思いました。
それでも彼らが数学に抱く愛情というものは凄まじく、それに感化されたことを覚えています。
博士はこれまでを孤独に生きていました。80分で記憶が無くなってしまうのでは、友人なんて作れるわけがなかったのです。きっと記憶障害が起こるまでにいた友人も、瞬く間に離れていったのだろうと思います。主人公が博士に出会った時、彼は義姉を除き、1人で生きていたのですから。
そんなある日、主人公が家政婦として表れたのです。『初めて』の友人として触れ合う日々は儚くも美しい。博士のもつ人間への愛情は、数学へのそれと勝らずとも劣らず、特にルートへの愛情は凄みすらありました。
どの登場人物も、初めから成熟しています。そのため、人間的な成長という側面ではあまり大きく見受けられないかもしれません。特にルートは、苦労した(している)子供に独特な人間的完成度を持っています。成長していないという意味ではないのですが、そこが物語の主題ではなく、あくまでも博士と過ごした日常を描くことに終始しているのです。
それにも関わらず、物語として飽きが来ず、むしろ慎ましさを感じる表現や描写ばかりで、とても感動しました。
コメント